三女は、左心低形成症候群(HLHS)という生まれつきの心臓病です。
これまでに4度の手術を乗り越えてきました。
- 両側肺動脈絞扼術
- ノーウッド・グレン手術
- 胸管結紮術(乳び胸手術)
- フォンタン手術(TCPC)
こちらの記事は、当時の記録をまとめたものです。
初めての退院は2016年2月27日、生後221日目までの入院治療・手術についての記録です。
三女の治療経過について
両側肺動脈絞扼術(肺動脈バンディング)
帝王切開で出産した直後から、保育器に入りNICUでの治療を開始しています。
- 生後0日目 プロスタグランジンの点滴を開始
- 生後4日目 総合病院から大学病院へと転院
- 生後5日目 肺血流増加のため低酸素治療を開始
- 生後8日目 壊死性腸炎の疑いのため絶食管理
- 生後17日目 気管挿管
- 生後19日目 敗血症の治療開始
- 生後37日目 内科的治療限界のため急変
- 生後39日目 緊急手術にて両側肺動脈絞扼術施行
両側肺動脈絞扼術とは、肺血流増加型の単心室・単心室症に対する姑息術になります。
単心室とは、左右の心房の片方がない、もしくは十分な大きさがない。
つまり機能する心室が1つしかない状態です。
三女にも、機能していない小さな左心室があります。
左右の肺動脈に、10mm程度のテープ状のバンドをかけて0.1mm単位で調節します。
肺に流れる血液が少なくなるようにコントロールして、全身に流れる血液を多くすることで体循環とのバランスを取るものです。
この手術を受けずに、次のノーウッド(ノルウッド)手術を受ける場合もあるようですが。
両側肺動脈絞扼術を受けた方が、次の成功率が上がるのだそうです。
心臓の元気度を測るBNPの値。
当時の三女について、しばらく経ってから主治医に確認すると5000~6000pg/mlとのことでした。
ノーウッド手術・両方向性グレン手術(ノーウッド・グレン手術)
プロスタグランジンの効果がいつまで持つのか。
医師も慎重に経過を見ながら、体重増加のために試行錯誤してくれました。
最終的には3ヶ月を大きく越えて。
生後5ヶ月でノーウッド手術と同時に、グレン手術という、その次の手術も同時に行えることになりました。
プロスタグランジンの効果だったのか、動脈管開存症だったのかはわかりません。
ノーウッド手術で、右心側で体循環を担える形に作り替えます。
肺動脈に低形成の上行大動脈を繋ぎ合わせ、新たに上行大動脈を形成します。
三女には左上大静脈遺残というものがありますが、これは胎児期の血管の名残です。
右上大静脈もありますが、三女の場合は通常より細くグレン手術ではその両方を肺動脈と繋げています。
看護師さんの言葉memo
先天性心疾患の子たちは、(細胞の)最初の分化で間違っちゃったんだからほかにたくさん間違いがあっても仕方がない。
ノーウッド手術の成功率
ノーウッド手術は、術後1ヶ月生存率が60~70%程度と小児の心臓血管手術の中では抜きん出て成功率の低く難しいものです。
そこにグレン手術を合わせると、術後は安定しやすい代わりに手術自体の難易度が上がるとのことでした。
最終的にはフォンタン手術(TCPC)にて、フォンタン循環をめざします。
右心室を体循環に使用するため、本来右心室で行われる肺循環は「心臓を通さずに直接肺へと送る」ことになります。
肺動脈に上大静脈を繋げ、上半身のチアノーゼを解消するのがグレン手術。
下大静脈を繋げ、下半身のチアノーゼを解消するのがフォンタン手術です。
これらの手術は開心術(人工心肺を使用)です。
血栓を始めとした合併症のリスクも高く、ノーウッド・グレン手術は予定時間が10時間でした。
手術も含めて治療を受ける際にはICでしっかりと確認してください。
不安を残したまま治療を進めていくと、不測の事態が起こった場合につらい思いをすることも出てきます。
わからないことは、できるだけ早く確認して、不安を取り除く必要があります。
- IC(インフォームド・コンセント):治療内容の説明・合意
三女がノーウッド手術を単独で受けられなかった理由
左心低形成症候群には上行大動脈の低形成があります。
大動脈の太さは3mmを基準にしていて、2mm未満だとノーウッド手術の成功率はかなり低いと聞いていました。
三女は、11月の造影CT検査時点で内径たったの2mm。
ありえないほどに状態が安定していた三女。
当時のBNPは50~100pg/ml程度でした。
そこで手術を1ヶ月延期して、2mmを超えるまで体重増加(3500g→最低4000g)をめざすことになりました。
RV-PAシャントでは術後に悪影響が出る可能性が高いので、やりたくないと。
ノーウッド手術時に人工血管を使って肺血流を作った場合、冠動脈への血流が乏しくなり心筋梗塞を起こす可能性が高くなります。
ノーウッド手術の術後1ヶ月生存率が低いのは、このバランスを取るのが難しいところにあるそうです。
しっかり体重を増やすことができれば、ノーウッド手術と同時にグレン手術をすることができるため人工血管は使わずに済むのは大きなメリットです。
上大静脈を直接肺動脈に繋ぐことで、冠動脈への血流を維持できます。
この時点で肺動脈の太さは14mm、心臓の大きさはいちご大程度、0.1mmが結果を左右する世界です。
小児の心臓血管外科手術の中で最も難易度の高いノーウッド手術に、さらにグレン手術をあわせて難易度を上げています。
ICでは「かなり難しいものになるので、心して行わなれればならない」とのことでした。
低出生体重児というハイリスク
一般的には生後数日で両側肺動脈絞扼術。
1ヶ月以内にノーウッド手術が行われることが多いようです。
しかし低出生体重児(不当軽量児)だった三女。
総合病院からの転院後、ICでは「両側肺動脈絞扼術まで耐えられる可能性が50%」とハッキリと告げられ。
出生体重の1688gから、1800g、2000g、少しずつ目標を上げていき39日かかって何とか2200gに到達しました。
肺血流増大以降、消化での負担が大きくなり。
母乳は3時間置きに1回たったの20cc、それをシリンジポンプで1時間かけてゆっくりと注入していました。
母乳だけでは体重増加のためには足りず、経過を見ながら脂肪の点滴もしていました。
「NICUの看護師から、かなり大変だったと聞いています」
「NICUで先生達が頑張ってくれたから」
小児科の医師も看護師もそろって口にしていたあたり、私たちには想像できないほどの奇跡の連続だったのでしょう。
小児科では早い段階で母乳から混合、そしてミルクへ。
高濃度ミルクや「MCTパウダー」を添加して飲ませていました。
MCTパウダーを添加していなければ、目標体重には届かなかったでしょう。
- MCTパウダー:消化吸収がよくエネルギーになる添加物
ノーウッド・グレン手術後のこと
術後の合併症「乳び胸」
術後8日目に、乳び胸がわかりました。
胸管が傷ついたことにより乳び(乳白色のリンパ液)が漏れてしまい、胸腔内に溜まる状態です。
治療は状態や施設によって多少変わるようです。
三女の場合は、以下のように進みました。
2016年2月27日(生後211日目)で退院。
退院後もMCTミルクは2ヶ月弱続きました。
治療用ミルクなのですが薬扱いにはならないため、医療費の還付対象にはなりません。
ドラッグストアなどでは市販されておらず通販で1缶3700円前後、全部で15缶買いましたが全額自己負担です。
とても消化がよく2時間置きに120cc飲んでいたのですが、1缶が3日半でなくなります。
退院時には在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)をしていましたが、退院後3ヶ月で使用を中止できる状態になりました。