学校や幼稚園からの電話は心臓に悪い。
このご時世だから、なおのこと。
着信は中学校からだった。
(どっちだ? 出掛けに冴えない顔をしていたハナか?)
悪い想像が脳内を2~3周したところでハッと気づき、できるだけ平静をよそおって電話に出た。
「1年〇組の担任の……」
ハナの担任だった。
急激に感染拡大してきた北海道、モモは心臓のことがあるので自主休校を検討していたゆず姉とハナ。
それを引きずったまま登校したので不安で体調を崩したのだろうか?
担任は若く、優しそうな雰囲気そのままの話し方で。
そのせいか少し不安気に聞こえたものだから心がザワついたのだけど、ありがたいことに私の予想ははずれた。
「ハナさんなんですが、体育の授業で肉離れを起こしまして。詳しい話は体育の△△に代わりますので」
肉離れ!ケガならよかった。
イヤイヤ、いいはずがない。
電話が来るということはそれなりのケガってことだ。
北海道に緊急事態宣言が出されると決まって数時間後のこと、このタイミングで余計な外出したくないよぉぉぉー!!!
心の中の小さな私は癇癪を起こして暴れていたけれど、これはもう当確の出た「避けられない事案」だと諦めてもいた。
子育てってこんなことの繰り返し、残念だけど慣れたもの。
少しの間をあけて、担任に次いで電話口に出た体育の教科担任。
チャラかった。
いやー、お母さん!お忙しいところ申し訳ないです。
ハナさんなんですが、50m走のスタートでバランスを崩してしまって。
でも、ハナさん体勢を立て直したんですよね! で、ここでハナさん根性見せちゃって、そのままゴールまで走り抜いてから倒れ込みまして!
「根性見せちゃって」じゃないから(笑)
のちにハナから聞いた話では、タイム測定をしていたのが気になったようで「とりあえず走ったんだけど力抜いたら痛かった」とのこと。
痛めた足で頑張って走ったところで、大したタイムも出ないのだから止まればよかったし。
母としてはバランス崩して転んで欲しかった。
恐らく、それが一番痛くなかった。
まぁ、誰も悪くないし仕方がない。
教科担任の口ぶりだと、かなり痛そうなので早退して受診するのが最善とのことだった。
時刻12時半、何て中途半端な時間なんだ……
体育は3時間目。
4時間目の授業には出席中とのことだったので、そのまま給食を食べてもらって14時頃に迎えに行きますと伝えた。
我が家はエレベーターのない4階なので、一度家に帰る方が大変だ。
約束の10分前に到着して、学校の前からタクシーを呼んだ。
ハナは教科担任から聞いていたほど痛そうにはしておらず、支えもなく歩くこともできていたのでホッとした。
ひととおり話を聞いて。
突然私が不在だと心配すると思い、ハナを病院に連れていくことをゆず姉に伝えてほしいと担任にお願いして。
ハナと2人、整形外科へ。
診察までは2時間ちょっと。
診断は軽度(ネット検索するとⅠ~Ⅲの3段階と出てくるが、この時は4段階のⅠと言われた)で、全治2週間。
体育の授業は2週間お休みして、1ヶ月かけて元に戻すようにと言われた。
完治する前に(屋外での)校外学習があるので、そこへの参加は要相談になってしまったけれど。
不幸中の幸い、想定した診断の中では最善だった。
そして診てくれた出張医がイケメンで、ハナとやりとりしている様を眺めながら癒された母。←
神様、ごほうびありがとう(笑)
そしてごほうびはもう1つ。
タクシーで移動中、私とハナのやり取りを聞いていた運転手さんが声を掛けてくれた。
「何年生?今日はどうしたの?」と。
お姉ちゃん1年生なの? 話してるのを聞いてたら、随分としっかりしてるからもう少し大きいのかと思った。
自分の思ってることをハッキリ言えるのもいいねー、きっとお母さんとの関係がいいんだろうな。
何でも話せるでしょ。
リップサービスもあるかな?
それでも嬉しかった。
ちょうど1年前のこと。
あれから、本当にいろいろなことがあったハナ。
深い悩みに眠れない夜があって、それゆえに学校を休んだ日もあって、「大変だった」なんて言葉にはおさめたくない日々が続いたことも。
私もひとりでは抱えきれずに、信頼できる人に話を聞いてもらって自分を整えながらハナと向き合い続けた。
正直なかなか大変だった。
ここまでよくやってきた。
自分のことだけれど、そう思える。
「難しい現実にも明るく立ち向かってる」
相談相手の1人が、ある時そう言って「偉い」とほめてくれたのがとても嬉しかった。
頑張ってきてよかったし、これからも頑張れる。
この日はタイミングよくモモが幼稚園からそのままデイサービスを利用していたし、お迎え(母子分離の完全送迎)には先に帰宅していたゆず姉が立ち会ってくれた。
一件落着、よかったよかった。
の、はずが。
担任が「妹が病院でお母さんがいない」って言うから、どっちのことかわからないし、モモに何かあったのかと思ってビビったし。
学校の玄関で(部活の)顧問にも「妹のこと聞いた?」って言われたけど。
何のことか全然わからなくてさー
しまった。
伝言を頼んだ先生方も、受け取った先生方も、モモの心臓のことを知らない。
頼んだ先生方は存在すら知らない(笑)
顧問にはチラッと話したことがあったけど……さすがにそこに考えは及ばないか。
私が病院から連絡するまで、何があったかわからず不安だったらしいゆず姉。
そりゃそうだわ。
どこで伝言ゲームを失敗したのやら(全部だよ!)
無事に済んだからよかったものの、ちょっと勘弁してほしい締めくくり。