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勝つこと 負けること ひたむきに。

小学校の運動会。

ゆず姉が泣いていることに気づいたのは、閉会式だった。
しばらく見ていると周りの子たちも泣いていて、集まって目元をぬぐっていた。

運動会の勝敗で泣くという感覚はあまりない。
それだけ勝ちたかったのだろうとは思っていた……ただ、まわりの子たちもというところが腑に落ちなかった。

 

ゆず姉とハナはともに紅組。
午前の部は序盤から劣勢で、常に30点ほどの差がついていた。

午後の部は学年団体競技と高学年リレーのみで、高学年は騎馬戦。

昨年は骨折で騎馬を選ぶしかなかったが、今年は男女混合の勝ち抜き戦を経て、騎手になることができた。
大将・総大将になれなかったことが悔しくて、泣いたほどだった。

 

競技は乱戦・個人戦・総大将戦の順に行われた。

乱戦はグループが3つで、1・2グループは全騎馬が倒れる、もしくは大将が倒れると敗北。
どちらも紅組の勝利。

3グループは総大将と、1・2グループで勝ち残った大将、そしてゆず姉も含めた3グループの騎馬。
基本的なルールは一緒だが、総大将が倒れた時点で乱戦自体の敗北が決まる。

1・2グループで敗北している白組は、3グループで紅組総大将を倒せば乱戦に勝利できる。

紅組の布陣は「総大将を全力で守る」、ゆず姉はそのど真ん中にいた。

 

後で聞いた話だが、練習で取り組んだのは個人戦のみ。
乱戦で「敵が迫ってくる」感覚をぶっつけ本番で経験したゆず姉は、かなりの恐怖だった。
自分が逃げたら総大将が倒れる、それだけは絶対に食い止めたい。

あとがない白組はものすごい勢いで迫ってくる。
目の前でいくつもの騎馬が倒れていくのを見ながら、練習で総大将に土をつけていた騎馬が迫ってくるのを見て「絶対に倒す!」と、必死で戦った。

何とか1勝はあげたものの、すぐ横から迫ってきた別の騎馬に倒された。
総大将は何とか逃げ切り、3グループは敗北したものの乱戦には勝利。

 

この疲れを引きずったままの個人戦。
練習では一度も負けたことがなかった個人戦には、それなりに自信があった。

けれど乱戦でどの程度疲れるかまでは全く想定できておらず、力を使い果たしたゆず姉は、タッチの差で敗北。
個人戦は、あと1点でドローだった。

長女は「自分がいつも通りに勝っていたら」と、泣きたい気持ちを必死にこらえて総大将戦を見守った。

 

総大将戦。
開始のピストルが鳴る直前に、紅組総大将がバランスを崩した。

体制を立て直しきれないうちに攻められて一瞬で敗北が決まった。
騎馬戦は白組の勝利。

 

児童席に戻ると、総大将は顔を伏せたまま泣いていた。

何度も何度も謝りながら「自分のせいだ」と責め続ける総大将を、背をさすって慰める子、悔しさを共有しながら一緒に泣く子、他の競技があるから望みは捨てるなと励ます先生。
泣きながら、みんなで必死に応援をした。

 

中学年と低学年が紅組の勝利で迎えた、高学年リレー。

観客席の最前列にいた私たち。
目の前にいた応援団の男の子2人が、聞き覚えのある名前を叫んだ。
紅組アンカー、紅組総大将の騎馬の大黒柱だった男の子。

アンカーの子と、紅組総大将と、ゆず姉は6年間同じクラスでずっと仲が良かった。
みんなが彼に思いを託した。

 

高学年リレー、紅白2人ずつの計4人で走る。
女の子は紅組優勢で終わった。

男の子はスタートの4年生から紅組が劣勢で。
6年生にバトンが渡ると、きつめに当たりながらインコースを攻めてきた白組に、上位にいた紅組がバトンを飛ばされて最下位。

思いを託された彼は3位だったが、最下位の子を見てペースを落としてゆっくりとゴール。

 

ここまでを聞き「今は無理でも、何年も経った頃にはいい思い出になっているね」と言ったのだが……
話には続きがあった。

 

泣いているゆず姉のクラスの紅組の子たちに代わり、低学年の椅子運びをどこかのクラスが受け持ってくれたようだった。

その間も泣き続けて教室に戻ると、白組の子たちが紅組の子たちを慰めてくれてまた泣き。
それを見た担任も泣き。

やっとで玄関先に現れたゆず姉のクラスの子たちは、先ほどよりみんな泣いていて。
ゆず姉ももれなく号泣しながら出てきて、私にしがみついて「悔しい」とこぼした。

 

という一連の話を号泣しながらするゆず姉に、泣きながら聞く私とハナ。

ゆず姉は、総大将が今までに泣いているのを見たことがないと言っていた。
つられてみんなもらい泣きをしたけれど、アンカーの子はいつものように笑っていたのだとか。

何となく目に浮かぶ。

 

勝利への欲、向上心、真摯に向き合う気持ち。
そして互いを思い合うこと。

とてもあたたかくて、優しくて、ゆず姉が過ごしている学校生活は「楽しい!」という言葉通りなのだろう。

運動が苦手な子もいて、順位をつけることや一致団結を強いることへの是非、お弁当不要論。
いろいろな声があがる。
もちろん、それらを軽視するつもりはない。

ゆず姉のポジティブに向き合える性格に、私自身かなり助けられているところはある。
ハナ目線で考えると唸ることも多々ある。

ただ、今の時代は大人が先回りし過ぎるくせに、結局「文句を言いたいだけ」じゃないのかとも思ってしまった。
問題ではないところまで問題にし過ぎている。
それは私も含めて。

遅れて走ってくる子を全力で応援して、誰に言われるでもなく団結して、大喜びでお弁当を頬張って。
そして、あんなにカッコイイ涙を流せる。

何だかもうそれで十分じゃないのか?と思ってしまった。

 

「騎馬戦は白組の勝利」

ゆず姉がいなければ、それだけで終わっていた出来事。
知らないところにたくさんのドラマがあって、私は偶然その一片に触れることができた。

こんなふうに、子どもたちの姿から教わることばかり。

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